このページの解説と分析は、AIの支援を受けて個人の勉強用に整理したものです。誤りを含む可能性があります。正確な情報は公式の発表をご確認ください。
HOW TO READ

このページの読み方

建物ごとではなく、「木で何ができたか」で並べる

概要1970年と比べる未来の素材は、鉄から木へ
01〜055つの可能性架ける・板・曲げる・森・循環
比較9つの建物を比べる木材・産地・組み方・閉幕後
部材部材としての木製材・集成材・CLT・LVL
分析木の建築の可能性筆者の分析

「建築家の作品史」(隈研吾・永山祐子)や「若手建築家のトライアル」が人を軸にした読み方だったのに対し、このシリーズは素材や技術を軸に、会場を横断して読みます。最初のテーマは木です。5つの分類と最後の分析は筆者によるものです。

OVERVIEW · 1970 / 2025

未来の素材は、鉄から木へ

1970鉄の大屋根

大阪万博(1970)の象徴は、丹下健三らのお祭り広場の大屋根だった。鋼管を組んだスペースフレームで、工業化された鉄の技術が「未来」を表していた。

2025木の大屋根

55年後の大阪・関西万博では、会場を囲む大屋根リングが木でつくられた。国内外のパビリオンにも木造が目立ち、木は環境の時代の「未来の素材」として扱われた。

01

大きく架ける

集成材と貫で、木の建築の規模を広げる

集成材(小さな板を貼り合わせた大きな木材)を使えば、天然の木の大きさを超えた部材がつくれる。大屋根リングはそれを伝統の構法と組み合わせ、木造の規模の上限を押し広げた。

大きく架ける解体して次へ

大屋根リング

藤本壮介(会場デザインプロデューサー)

清水寺の舞台と同じ「貫」の考え方で、細い集成材を規則正しい格子に組み、2kmの回廊をつくった。木造は小さな建物のもの、という思い込みを、規模で覆した。1970年の大阪万博の象徴が鋼管のスペースフレームの大屋根だったことを思えば、55年で「未来の素材」が鉄から木に入れ替わったことを示す建物でもある。くわしくは万博建築ガイドで取り上げている。

木材
国産のスギ・ヒノキが約7割、欧州アカマツが約3割
構法
柱に穴をあけて梁を通す伝統の「貫(ぬき)」を、金物と組み合わせた。接合部の納め方は工区ごとに3社が工夫した
規模
外周約2km、高さ約12m(外側約20m)。「世界最大の木造建築物」としてギネス世界記録に認定
閉幕後
北東部の約200mを残す計画。解体した木材は、能登半島地震の被災地(石川県珠洲市)の復興住宅、横浜の国際園芸博覧会のタワーなど、各地での再利用が決まっている(2026年時点の報道による)
万博建築ガイド「大屋根リング」へ →
02

板で建てる

CLT(直交集成板)を、壁や床に使う

CLT は、板を繊維の方向が直交するように重ねて貼った大きなパネル。壁や床として使え、鉄骨やコンクリートの代わりに建物を支えられる。日本館とチェコ館は、同じ CLT を対照的に見せた。

板で建てる解体して次へ

日本館

総合プロデュース 佐藤オオキ、建築設計 日建設計

日本館のテーマは「循環」。ごみが微生物の力で水やエネルギーに変わる展示と同じように、建物自体も「借りて、使って、返す」ことを前提に設計された。CLT を借り物として扱い、傷めないよう接着剤を使わず、加工も最小限にした点が新しい。建物を完成品ではなく、資源の通り道としてとらえている。

木材
CLT(直交集成板)を280組・560枚。最大で約3m×12m。熊本県産などを日本CLT協会から借りて使った
構法
鉄骨の架構に CLT の耐震壁を組み合わせる。接着剤を使わない乾式接合で、ビスとボルトで鉄骨に留める。加工は切れ込み・穴あけなど最小限
形
CLT の板を円周に沿って少しずつずらして並べ(雁行)、円環を繰り返す
閉幕後
CLT は解体して日本CLT協会に返し、別の建物に使う。積水ハウスなどの「旅するCLT」は、2027年以降、日本館の CLT で建物をつくっては解体し、各地を巡回させる計画
板で建てる

チェコ館

Apropos Architects

チェコが誇るガラス工芸と、中欧で発達した CLT を組み合わせた。館内では「CLTとは?」というパネルと試験体まで展示し、CLT そのものを国の技術として紹介していた。パネルには「鉄骨フレームを使わず、CLT のみで構造を支えている」とある。日本館が CLT を鉄骨と組み合わせて「板を見せる」のに対し、チェコ館は CLT だけで建て、ガラス越しに木の床と天井を見せる。

木材
CLT(直交集成板)。外側は模様の入ったガラス
構法
館内のパネルによると、鉄骨のフレームを使わず CLT だけで構造を支える(海外の建築メディアには鉄骨と組み合わせたとする記事もある)。パネルはねじで留め、解体しやすい
形
長さ約260mのらせんのスロープを上りながら展示を見る。外から見ると、ガラスの帯と木の帯が重なるらせん
閉幕後
確認できていない
03

曲げる・編む

細い木で、曲線と複雑な形をつくる

木は「まっすぐな柱と梁」だけの素材ではない。薄い板を編む、規格化した部品を積む、細い材を船のように組む。3館は、木で曲線や複雑な面をつくる3通りの方法を見せた。

曲げる・編む解体して次へ

オーストリア館

BWM Designers & Architects(構造 werkraum ingenieure)

木を「まっすぐな柱や梁」ではなく、ねじれながら空に昇るリボンにした。最小で半径3mの急なカーブを、薄い板の組み合わせで実現している。

木材
認証を受けたオーストリア産のトウヒ(スプルース)約15トン
構法
薄い木の板を編むように組み、木のだぼで留める。上下の帯を265本の斜材でつなぐ。5本の鉄骨の柱で支える
規模
リボンの長さ約91m、幅約4.3m、高さ約16m。風速200km/hに耐える
閉幕後
接着剤ではなくねじで組んでいるため、すべて解体して再利用できる(設計時点)
曲げる・編む

ポーランド館

Interplay architects+Komy studio(構造 Jun Sato Structural Engineers)

少ない種類の部材を繰り返して、複雑な曲面をつくった。木を「規格化した部品」として扱う考え方は、大屋根リングの格子にも通じる。日本の木を使いながら、ポーランドの伝統工芸を現代の方法で表したとしている。

木材
日本産のマツ。構造と外装の両方に使う
構法
2種類の規格化した木のモジュールを、建物の形に合わせて積み重ねる
形
高さの違う曲がった壁が重なり合い、らせんを描く。光と影で表情が一日のうちに変わる
閉幕後
確認できていない
曲げる・編む

バーレーン館

リナ・ゴットメ

細い木材を、船を造るように組み上げた。加工していない木材をそのまま使い、二つの国の木組みの技術を出会わせた点で、隈研吾のカタール館(日本とカタールの継手)とも響き合う。

木材
集成材などに加工していない木材、約3,000本
構法
バーレーンと日本の伝統的な木組みの技術を組み合わせた、機械的な接合
形
バーレーンの伝統的な木造船ダウ船の造船を思わせる、細い木材の架構
閉幕後
解体・再利用しやすい設計(設計時点)。行き先は確認できていない
04

森とつなぐ

どこの森の、いつの木か。来歴ごと使う

木材の価値を、性能だけでなく「どこから来たか」で語る建物があった。住友館は55年前に植えた木を、ウズベキスタン館は1本ずつ来歴をたどれる柱を使った。

森とつなぐ

住友館

住友グループ

55年前の万博の年に植えた木が育ち、次の万博の建物になった。木材を「どこの森の、いつ植えた木か」という来歴ごと見せている。木が育つ時間と、二つの万博の時間を重ねた建物。

木材
住友グループが持つ「住友の森」の木、約1,000本
使い方
入口まわりの外壁には、1970年の大阪万博の年に植えたスギを積み重ねて使った。屋根と外壁にはヒノキを合板に加工して使った
閉幕後
確認できていない
森とつなぐ

ウズベキスタン館

Atelier Brückner

木の柱1本ずつに、出身の森をたどれるタグを付けた。木を「どこから来たか」で見せる点は住友館と同じだが、ここではデジタルの技術で来歴を記録している。

木材
大阪の森から切り出した木の柱。1本ずつに NFC タグが付き、どの森で伐られ、どう加工されたかをたどれる
構法
木の柱を組み合わせたモジュールの構造。下の階は日本各地から集めた古いれんがで包む
形
シルクロードの隊商宿(キャラバンサライ)がモチーフ。れんがの「大地」から木の「森」が育つ
閉幕後
確認できていない
05

解体して次へ

仮設の建物を、資源の通り道にする

半年で終わる万博の建物は、壊されて終わるのが普通だった。今回は、接着剤を使わない、ねじで留めるなど、最初から解体と再利用を前提に設計した木の建物が多かった。ここに挙げたノルディック・サークルのほか、上で見た大屋根リング・日本館・オーストリア館もこの試みに当たる。

解体して次へ

ノルディック・サークル(北欧館)

ミケーレ・デ・ルッキ/AMDL CIRCLE

デンマーク・フィンランド・アイスランド・ノルウェー・スウェーデンの5カ国が共同で出展した。森の国々らしく木造で建て、最初から「次に使うこと」を目的に組み立てた。

木材
木造。外装は木のルーバー
規模
高さ約17m、約1,200㎡
閉幕後
建物全体を、再利用することを前提に設計・製作・施工した(設計時点)。行き先は確認できていない
COMPARE

9つの建物を比べる

館名をクリックすると、上の解説に戻ります。「—」は資料で確認できなかった項目です。

館木材産地・来歴組み方閉幕後
大屋根リング集成材(スギ・ヒノキ・アカマツ)国産 約7割貫+金物一部保存、解体材を各地で再利用
日本館CLT 560枚熊本県産など(借用)接着剤なしの乾式接合返却し、別の建物へ(旅するCLT)
チェコ館CLT+ガラス—CLT のみの構造、ねじ留め確認できていない
オーストリア館トウヒの薄板オーストリア産だぼ・ねじ留め解体・再利用できる
ポーランド館マツのモジュール日本産2種類の部品を積む確認できていない
バーレーン館無加工の木材 約3,000本—二国の木組み解体・再利用しやすい
住友館スギ・ヒノキ合板住友の森(1970年植樹のスギ)—確認できていない
ウズベキスタン館木の柱大阪の森(NFCタグで来歴)モジュール確認できていない
ノルディック・サークル(北欧館)木造・木のルーバー——再利用前提で設計

ほかのページで取り上げた木の建築

いのちの遊び場 クラゲ館吉野杉を粘菌のアルゴリズムで枝のように組んだ「創造の木」(万博建築ガイド) いのちのあかし廃校の木造校舎の柱や小屋組みを移築して組み直す(万博建築ガイド) ポップアップステージ 北ほか未乾燥の丸太を会期中に乾かし、木材の流通に戻す(若手建築家のトライアル)
MATERIAL

部材としての木を考える

ここまでの9館を、使われた「木の部材」の種類で見直します。同じ木でも、丸太や角材のまま使うのか、薄い板を貼り合わせて工業製品にするのかで、できることが大きく違います。

部材つくり方得意なこと・弱み万博での使われ方
製材・丸太無垢の木木を切り出し、そのまま、または角材にする加工が少なく、来歴をたどりやすい。大きさは木の太さで決まり、乾燥による割れや反り、強度のばらつきがあるバーレーン館(加工していない木材 約3,000本)、ウズベキスタン館(大阪の森の木の柱)、ポップアップステージ北(未乾燥の丸太)
集成材グルーラムひき板(ラミナ)を、繊維の方向をそろえて接着剤で貼り合わせた棒状の材天然の木より長く太い材がつくれ、強度が安定する。柱や梁など「線」の部材に向く大屋根リングの柱と梁
CLT直交集成板ひき板を、繊維の方向が直交するように重ねて貼り合わせた大きな板縦横どちらにも強く、反りにくい。壁や床など「面」の部材に向く。日本では2013年に JAS(日本農林規格)、2016年に一般的な設計法の告示ができた新しい材料日本館(560枚、最大 約3m×12m)、チェコ館
LVL単板積層材丸太を薄くむいた単板を、繊維の方向をそろえて重ねて貼り合わせた材寸法が正確で、強度のばらつきが小さい大屋根リングの南東工区で、貫を締める楔に使われた(万博建築ガイドのコラム)

写真で見る、木の部材

訪問中に撮った、建物そのものではなく「部材」に注目した写真です。クリックすると拡大します。

チェコ館のパネル「CLTとは?」。左が CLT(板を直交させて重ねる)、右が集成材(同じ方向に重ねる)9/23
同じパネル。「鉄骨フレームを使わず、CLT のみで構造を支えている」と書かれている7/19
CLT の試験体(ブロック)と、パビリオンのらせんを表した透明な模型7/19
CLT の断面。直交するひき板の層が見える9/23
大屋根リングの貫の交点。集成材の柱を梁が貫き、楔で締める9/7
日本館の展示「建築」。解体した CLT の板を次の建物に回すことを模型で示す7/17

部材のその先:木を繊維のレベルまでほどく

フューチャーライフヴィレッジ(若手建築家の小室舞が設計した展示施設)では、木材をチップにし、パルプにし、さらに細かくほぐした「ナノセルロース」が紹介されていた。木を貼り合わせて大きくする集成材・CLT とは逆に、木を小さくほどいて新しい素材にする方向である。

ナノセルロースを使った製品の展示6/15
① 木材をチップにする6/15
② 製紙工場でパルプとして取り出す(大きさ 1/1,000 m)6/15
③ パルプをさらに細かくすると「ナノセルロース」(1/1,000,000,000 m)6/15
A

木を「計算できる材料」にした

集成材・CLT・LVL は、ひき板や単板を貼り合わせることで、木の弱点だった大きさの限界を超え、強度のばらつきを小さくした。鉄骨のように規格化された部材として計算できるからこそ、2kmの大屋根リングや12mの CLT の壁が可能になった。今回の万博の木造は、伝統の木組みの再評価であると同時に、木の工業化の成果でもある。

B

「線」の集成材と「面」の CLT

大屋根リングは集成材の柱と梁で格子を組み、向こうが透けて見える回廊をつくった。日本館は CLT の板を並べ、空間を区切る壁をつくった。同じ貼り合わせた木でも、線として使うか面として使うかで、建築のあり方が正反対になる。また日本館は CLT を鉄骨の架構と組み合わせ、チェコ館は館内のパネルによれば CLT だけで構造を支えた。同じ CLT でも、鉄と役割を分ける使い方と、木だけで建てる使い方の両方があった。

C

接着剤の「内」と「外」

集成材や CLT は、材の内側を接着剤で貼り合わせることで生まれる。一方で、材と材をつなぐところには、日本館もオーストリア館もチェコ館も接着剤を使わず、ビスやボルト、ねじ、だぼで留めた。材の中は接着で強くし、材と材は機械的につないでほどけるようにする。この使い分けが「解体して次へ」を可能にしている。

D

再利用には「どこで使ったか」が効く

日本CLT協会は、日本館で使った CLT を再利用するためのガイドをまとめた。屋内で雨のかからない壁として使った CLT は、半年間荷重をかけ続けた試験でも曲げや圧縮の性能が落ちず、ビスの穴も規格の許容範囲とされ、点検すれば JAS と同等の品質と判断できる道筋が示された。一方、北海道の林産試験場の研究では、屋外で半年間荷重をかけた CLT は曲げや縦方向の圧縮の強度が下がる傾向があった。日本館の外周には雨や日差しにさらされた CLT もある。同じ CLT でも、使った場所によって「次」の使い道が変わる。

E

加工しない木の、もう一つの可能性

工業化とは逆に、バーレーン館は加工していない木材を、ウズベキスタン館は森をたどれる柱を、若手のポップアップステージ北は乾かす前の丸太を使った。加工が少ないほどエネルギーも接着剤も使わず、木の来歴もそのまま残る。強さや大きさを求める工業化と、手を加えずに使い切る方向。万博では、木の可能性が二つの方向に広がっていた。

F

見方を広げる問い

CLT は日本では生まれて10年ほどの材料で、JAS の認証を受けた工場は全国に11、生産能力は年に約10万m³(2025年6月時点)。万博は、その可能性を多くの人に見せる場になった。ただ、大屋根リングでも木材の約3割は欧州のアカマツだった。工業化した木の部材を、国内の森から安定してつくり、使ったあとも次の建物に回せるか。万博の後に問われるのは、ショーケースの先の仕組みである。

MEANING

木の建築の可能性

以下は、ここまでの内容をもとにした筆者の分析です。

01

規模の壁を越えた

集成材と CLT という「工業化された木材」が、木造の規模を大きく広げた。大屋根リングの2km、日本館の12mの CLT は、天然の丸太ではつくれない。伝統の構法(貫・木組み)とこうした新しい木材を組み合わせたことが、今回の万博の特徴だった。

02

「解体できること」が設計の条件になった

接着剤を使わない、ねじやだぼで留める、加工を最小限にする。日本館・オーストリア館・チェコ館・ノルディック・サークルは、壊すときのことまで考えて組み方を選んでいた。木の建築の良さを、建てるときより「ほどくとき」に見いだす考え方が広がっている。

03

木材に物語が戻ってきた

住友館の「1970年に植えたスギ」、ウズベキスタン館の「来歴をたどれる柱」、日本館の「借りて返す CLT」。木材を均質な工業製品としてではなく、時間と場所をもつ素材として見せる建物が多かった。万博は、木材の来歴を語る舞台にもなった。

04

見方を広げる問い

木を使えば環境に良い、とは単純には言えない。半年で解体する建物に大量の木材を使うこと自体を問う声もある。その答えは、解体した木材が本当に次の建物で使われるかどうかにかかっている。大屋根リングの木材が能登の復興住宅や横浜の博覧会に渡ることが決まったように、閉幕後の行方を追いかけることが、この万博の木の建築を評価することにつながるだろう。

参考にした資料

各館の説明は、上の資料をもとにした要約です。閉幕後の情報は設計時点・報道時点のもので、変わることがあります。